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岡山地方裁判所倉敷支部 昭和59年(ワ)144号 判決

原告

末吉忠志

ほか一名

被告

宮田素明

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告末吉忠志に対し、一三九〇万六七六一円、原告末吉幸恵に対し、一三一〇万三七六一円及び右各金員に対する昭和五九年七月二八日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、原告らの勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告末吉忠志に対し四一七六万四九一〇円、原告末吉幸恵に対し三八七五万円及び右各金員に対する昭和五九年七月二八日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

末吉一郎(以下「一郎」という)は次の事故によつて死亡した。

(一) 日時 昭和五九年二月二六日午後〇時三〇分ころ

(二) 場所 倉敷市連島町西之浦五六六〇番地の三先県道上

(三) 加害車 大型貨物自動車

右運転者 被告宮田素明(以下「被告宮田」という)

(四) 被害車 自動二輪車

右運転者 一郎

(五) 事故の態様 自動二輪車を運転して進行していた一郎に対向車線を進行してきた加害車が突然中央分離帯をこえて衝突

2  責任

(一) 被告宮田 民法七〇九条

同被告は加害車を運転して走行するにあたり、前方を十分注視し、適確なハンドル操作をして走行すべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠つた。

(二) 被告宮田運送株式会社(以下「被告会社」という)

自賠法三条

同被告は加害車を所有し、被告宮田をして加害車を運行の用に供していた。

3  損害

(一) 一郎分

(1) 逸失利益 六六五〇万円

イ 一郎は死亡当時満一八歳であつた。

ロ 収入 一郎は高校三年生で既に大学への入学手続も終わつていたものであるから、男子労働者の全年齢平均給与額を超える収入を得られたはずであり、その得るべき月収は三二万四〇〇〇円である。

ハ 稼働年数 満一八歳から満六七歳まで四九年間

ニ 控除すべき生活費 近い将来一家の中心的な存在になる立場を考慮すると三〇パーセント

ホ したがつて、一郎の逸失利益の現価を新ホフマン式により算出すると次式のとおり六六五〇万円となる。

324,000×12×(1-0.3)×24,416≒66,500,000(10万未満四捨五入)

(2) 原告らの相続

原告らは一郎の両親であるから、一郎に生じた損害金六六五〇万円について、二分の一の三三二五万円ずつを相続した。

(二) 原告末吉忠志分

(1) 病院関係費 三万九九一〇円

原告末吉忠志は、一郎の病院関係費用として、水島中央病院に対し、三万九九一〇円を支払つた。

(2) 葬儀費用 二五〇万円

原告末吉忠志は、一郎が大事な跡取り息子であつたので多大な費用をかけてその葬儀を盛大にとりおこない、仏壇、仏具を購入し、墓碑建立にも費用をかけている。

その内金として二五〇万円を請求する。

(3) 一郎の学費 四七万五〇〇〇円

一郎は、既に昭和五九年四月からの京都学園大学への入学が決まつており、原告末吉忠志は、大学に対して入学金二〇万円及び前期学費二七万五〇〇〇円の合計四七万五〇〇〇円を納入済である。この金員は、入学しなくとも戻つて来ることはなく、本件事故と相当因果関係にある損害である。

(三) 原告ら分

(1) 慰藉料 各一二〇〇万円

一郎は、原告らの長男であり、既に入学が決まつていた京都学園大学において経済学を学び、卒業後は、父である原告末吉忠志の経営する末吉興業株式会社にはいり、会社の後継者として父の右腕になる予定であつた。跡取りとたのむ大事な長男が、突然痛ましい事故により死亡し、原告ら両親は悲嘆にくれ、仕事も手につかぬ状態である。その精神的損害はとうてい金銭に換算できうるものではない。

また本件事故の態様をみるに、被告宮田の過失の重大さからみて、無過失の一郎の家族の悲しみは絶大なものがあり、それは慰籍料の金額に当然反映されるべきものである。

よつて、慰籍料として原告各人につき一二〇〇万円が相当である。

(2) 弁護士費用 各三五〇万円

4  損害の填補

原告らは自賠責保険から二〇〇〇万円を受領し、各二分の一ずつ各自の損害に填補した。

5  よつて、本件損害賠償金として被告ら各自に対し、

(一) 原告末吉忠志は、3の(一)ないし(三)の損害金合計五一七六万四九一〇円から既に支払を受けた一〇〇〇万円を控除した四一七六万四九一〇円及びこれに対する各被告に対し本件訴状が送達された日の後である昭和五九年七月二八日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払

(二) 原告末吉幸恵は、3(一)、(三)の損害金合計四八七五万円から既に支払を受けた一〇〇〇万円を控除した三八七五万円及びこれに対する前同日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払

を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  同3の点は知らない。

特に同(一)(1)の点について、基礎となる収入額は、男子労働者の高校卒の初任給によるべきであり、仮に一郎の大学進学が確実であつたとしても大学卒の初任給によるべきであつて、その場合、労働可能期間は満二二歳から満六七歳の四五年間であり、控除すべき生活費の割合は五〇パーセントとすべきである。

三  抗弁(弁済)

被告らは、原告らに対し、本件事故の損害賠償の填補として次のとおり合計二〇〇三万六九一〇円を支払つた。

1  医療費 三万六九一〇円

2  自賠責保険 二〇〇〇万円

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は認める。

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

したがつて、被告宮田は民法七〇九条により、被告会社は自賠法三条により、連帯して、一郎及び原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

二  損害

1  一郎分について

(一)  逸失利益 二九八〇万七五二三円

(1) 稼働可能期間

成立に争いのない甲第一号証、原告末吉忠志本人尋問の結果により成立の認められる甲第五八号証、及び同本人尋問の結果によれば、一郎は昭和四〇年八月一三日生れの本件事故当時満一八歳六か月の高校三年生で、既に大学への進学が決まり入学金も納入済であるなど昭和五九年四月以降四年間の大学生活を送る予定であつたこと、そして、健康体の男子であつたことが認められる。

このことに、厚生省発表の生命表を勘案すれば、一郎は本件事故に遭わないとすれば少くとも大学卒業後の満二二歳から満六七歳までの四五年間に亘り稼働可能であると推認できる。

(2) 収入

一郎の右認定した稼働可能期間における収入は、賃金センサスによつてこれを判断するのが妥当である。そして同人が大学を卒業する蓋然性が高く同人に対して予想される稼働開始時期が未だ将来の時点の問題でもあり、さらにその稼働期間が長期に亘ることからすると、事故年時の賃金センサスや現時点の満一八歳又は満二二歳の平均給与額を基準とするのではなく、現在までに公表されている賃金センサスのうち最新の昭和五九年時のものを使用し、かつ同表中の第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計・男子全年齢平均の現金給与額と年間賞与その他の特別給与額を併せたものをもつて、同人の得べき収入とするのが相当である。

そうすると、同人の得べき収入は、その稼働全期間を通じて、年間四〇七万六八〇〇円(現金給与額月額二六万五一〇〇円の一二か月分と年間賞与その他の特別給与額年額八九万五六〇〇円の合算額)を下回らないものを得られたと認めるのが相当である。

(3) 生活費控除

逸失利益算定に際し控除すべき一郎の生活費は、同人が高校三年生の学生であることからすれば、その得るべき収入額の五〇パーセントとするのが相当である。

(4) 中間利息控除

一郎の得べかりし収入の現価を求めるための中間利息の控除の算式としては年五分の割合による年別ライプニツツ方式によるのが相当である。(同人の事故時の満年齢はその計算上一八歳、大学卒業時の満年齢は二二歳として扱う。)そして、稼働可能期間が前記のとおりであることからするとその係数は一八歳から六七歳までの四九年に対応する係数(一八・一六八)から、一八歳から二二歳までの大学在学の四年に対応する係数(三・五四五)を差し引いた一四・六二三となる。

(5) 以上によれば、一郎の本件事故時の逸失利益は次式のとおり二九八〇万七五二三円(円未満切捨て、以下同様とする)となる。

4,076,800×0.5×14,623=29,807,523

(二) 相続

原告らが一郎の両親であることは前掲甲第一号証により認めることができるので、原告らは、同人の死亡によつてその取得した損害賠償請求権を、法定相続分に従つて、各二分の一に当る一四九〇万三七六一円を相続したものということができる。

2 原告末吉忠志分

(一)  病院関係費

原告末吉忠志本人尋問の結果成立の認められる甲第六二号証の一ないし五及び同本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば一郎は本件事故直後水島中央病院へ救急車で搬送され手当を受けたので同原告において同病院に対し、その費用として合計三万九九一〇円を出捐したことが認められる。

(二)  葬儀関係費等

原告末吉忠志本人尋問の結果成立の認められる甲第三、第四、第四九号証、第五一号証の一ないし八、第五二号証の一ないし五、第五九号証の一、二、第一三三号証の一、二及び同本人尋問の結果によれば、原告末吉忠志は、一郎の葬儀をなし、仏壇、仏具を購入し、墓碑建立をなして少くとも原告主張の二五〇万円を超える費用を出捐したことが認められる。

しかしながら、一郎の年齢、家族構成、境遇等の事情を併せれば、葬儀費用(仏壇仏具購入、墓碑建立の費用を含む)としては八〇万円が本件事故と相当因果関係にある損害と認められる。

(三)  一郎の学費

原告末吉忠志は納入済みの一郎の大学入学のための入学金及び前記学費合計四七万五〇〇〇円を本件事故の損害金として主張するが、これは本件事故と相当因果関係にある損害と認められない。

3  原告ら分(慰藉料) 一四〇〇万円

原告末吉忠志本人尋問の結果に弁論の全趣旨を併せれば、原告らは一郎を含めて三人の子を儲けたが、本件事故によつてその長子であり、原告忠志の経営する会社の後継者にする予定であつた一郎を失つてしまつたことが認められ、これに本件事故の態様(前認定のとおり本件事故が対向車線上の加害車が突然中央分離帯を超えて一郎運転の自動二輪車に衝突した被告宮田の一方的過失によるものである点)、被告らの本件事故後の不誠実な対応等のほか、本件諸般の事情を勘案すると原告らの精神的苦痛に対する慰藉料はそれぞれ七〇〇万円(合計一四〇〇万円)を下回らないと認めるのが相当である。

4  以上によれば、本件事故によつて、被告らに損害賠償請求しうべき金額は原告末吉忠志が右1ないし3の合計二二七四万三六七一円で、原告末吉幸惠が右1、3の合計二一九〇万三七六一円である。

三  賠償額

1  損益相殺

抗弁事実は当事者間に争いがないので、原告らの受領した金額のうち、一〇〇三万六九一〇円を原告末吉忠志の損害賠償債権から、一〇〇〇万円を原告末吉幸惠のそれから各控除すれば、被告らに対し、原告末吉忠志は一二七〇万六七六一円を、原告末吉幸惠は一一九〇万三七六一円を請求することができることになる。

2  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは被告らが損害賠償金を任意に履行しなかつたので、やむなく弁護士たる本件原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その手数料及び報酬の支払を約したことが認められる。

そして、本件事故の内容、義理経過、認容額に照らすと、原告らが被告らに負担せしめ得る弁護士費用相当分は各一二〇万円(合計二四〇万円)であると認められる。

3  賠償額

以上のことからすれば、被告らは本件事故による損害賠償として、連帯して、原告末吉忠志に対し、一三九〇万六七六一円、原告幸惠に対し、一三一〇万三七六一円の支払義務がある。

四  結論

よつて、原告らの本訴請求のうち、被告らに対し、原告末吉忠志が一三九〇万六七六一円、原告末吉幸惠が一三一〇万三七六一円並びに右各金員に対する被告らに対し本件訴状が送達された日の後であることが記録上明らかな昭和五九年七月二八日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各連帯支払をそれぞれ求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言については同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

なお、担保を条件とする仮執行免脱の宣言については相当でないので却下する。

(裁判官 安藤裕子)

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